北海道、十勝清水「コスモスファーム」のコンビーフを初めて取り寄せたときも、優しいブルーの缶詰を手にした瞬間、じわっと伝わってくるものがあった。たぶん長い付き合いになるはず。予感といっしょにキャベツと炒めると、北海道・日高山脈の裾野ですこやかに育った牛が存在感をともなって舌の上に広がる。冬場はマイナス三十度まで下がる、きびしい自然環境で育まれた味。コンビーフをつうじて土地を感じるなんて、初めての経験だった。つぎのひと缶はどんなふうに料理しようか。うれしい「千本ノック」が待っていた。
平松洋子エッセイスト
岡山県倉敷市出身。アジアを中心として世界各地を取材し、食文化と暮らし、文芸と作家をテーマに執筆活動を行う。2006年『買えない味』で山田詠美の選考によりドゥマゴ文学賞受賞。2012年『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞。最新刊は『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋刊)