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向田邦子とお取り寄せ黄金時代
酒井順子

食べることが大好きだった、向田邦子。料理本も出ているほどの料理上手であるだけでなく、各地の美味しいものにも詳しい“お取り寄せ好き”でもありました。

向田エッセイに登場した、九州の練り梅のようなものが美味しそうだったので、「今でもあるのかしらん」とググってみたところ、見事にヒットしたので、早速お取り寄せ。向田邦子と同じものを食べているのかと思うと、何だか嬉しいものです。

向田邦子さん

ネットもなく、宅配便も発達していなかった向田邦子の時代と比べると、今やお取り寄せはぐっと手軽にできるようになりました。食品加工の技術も進み、「こんなものもお取り寄せできるの!」と驚くこともしばしば。

特にコロナ時代となって、私もずいぶんお取り寄せに助けられたものです。スーパーに行くのがためらわれた頃は、取り憑かれたように各地の食材をお取り寄せ。昼から天婦羅を揚げたりしていましたっけ。

しかし、そんなテンションは長続きしませんでした。昼から天婦羅を揚げていたのは明らかに“非常事態ハイ”だったからであり、取り寄せるものも「手間をかけずに食べられるもの」に移行していったのです。

そんな中、ご近所の七十代女性と話をしていると、
「私、ネットでのお取り寄せって、やり方がわからないのよ」
とおっしゃいます。スマホは持っているけれど、電話とLINE程度で、ネット機能はあまり使用していないというのです。

確かにネットに対する親しみが薄い世代は、お取り寄せ率も低いのかもしれません。そこで、ネットでのお取り寄せの楽しさや便利さを切々と語ってみたところ、次に会った時にそのご婦人は、
「娘にやり方を聞いて、初めてネットでお取り寄せをしてみたの!  最初は、私の物分かりが悪くて娘にイラつかれたけど、やり方を覚えてみたらすごく楽しいわね。はい、これおすそ分け。昔、旅行に行った時に食べた京都のお菓子を取り寄せたのよ〜」
と、おっしゃるではありませんか。

お菓子をいただきつつ私は、実は高齢の方ほどお取り寄せは便利なシステムなのかもしれない、と思ったことでした。買い物に出ずとも、そして旅行に行かずとも、様々な地の味が玄関先まで届くのですから。

明石鯛

何だかいいことをしたような嬉しい気分になった私がその晩に食したのは、明石鯛の漁師漬け。肉厚の鯛の切り身には味がしっかりしみており、丼にしても、鯛茶漬けにしてもよし。寿司飯に載せて、バラちらし風にしてもいいかもね。……と、萎えかけている料理への意欲も、刺激されます。

明石鯛の漁師漬け

鯛茶漬けを平らげた後は、残ったご飯に向田邦子の練り梅を載せて、もう一杯お茶漬けを。向田邦子が存命であれば、九十代。きっと今のお取り寄せ黄金時代を楽しまれていただろうなぁ、という気がしてなりません。

酒井順子

profile

酒井順子作家

1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告代理店勤務を経て執筆専業に。2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞

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