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幸福の豚
阿川佐和子
作家

基本的に昼ご飯は食べない主義である。
そう宣言しておきながら、実は食べることもある。

「なんだ、食べてるじゃん!」

周辺の者たちに笑われること多々であるが、私の本音としては、「食べたくない!」のではなく、「食べてはいけない!」のだ。でもときおり、ランチで打ち合わせなんてことがある。「ちょっとここらで蕎麦でもいかが?」と誘われて断り切れないときもある。「軽くね……」と牽制しつつ、残すことなくしっかり完食してしまう浅はかな私なのである。

するとどうなるか。
お腹がいっぱいになる。
当たり前だが、私の場合、日が暮れてもなおお腹の重い状態が続く。ゆえに、晩ご飯への意欲が失せる。これが問題なのである。

つらい原稿を書き上げたあと、あるいは緊張するインタビューを終えたあと、自らへの褒美が晩ご飯なのだ。満を持して迎える楽しいひとときを、できれば空っぽの胃袋で臨みたい。そのためには昼ご飯を抜いたほうがいい。

コロナ禍において、外で昼ご飯のお誘いを受ける機会は減ったが、そのかわり、十二時の時報がなってまもなく、私の書斎のドアが開く。同居人の顔が現れて、

「昼めし、どうする?」

パソコンに向かっていた私は眉間に皺を寄せて振り返る。

「さっき朝ご飯、食べたばっかりじゃん!」

 すると相方が言い返す。

「さっきのは朝ご飯、今は昼ご飯の話」
「私はまだお腹すいてないんですけど」

不機嫌な私に恐れおののくのか、同居人氏は弱気な態度で、

「いいよいいよ。自分で作るから」

あっさり退散する。そう言われると申し訳ないではないか。健気な妻は渋々椅子から立ち上がり、冷蔵庫をあさる。ネギとハムと玉子で炒飯を作るか。それともラーメン? あるいはきつねうどん? お揚げがないぞ。トマトスパゲッティかな。

こうして調理し、見事な(と自画自賛する)昼ご飯が出来上がってみると、つい興味が湧いて、同居人ともどもしっかり食し、案の定、お腹がいっぱいになる。だから食べたくないって言ったのに。

梅山豚の肉まん
梅山豚の肉まん 3個入り4袋
¥2,852(税込)
カートに入れる

そんな日々を過ごす折、発見したのである。ネットで注文できる梅山豚の肉まん君! この肉まん君たちが冷凍庫にごろんと転がっていることで、我が夫婦間の昼ご飯問題がどれほど改善されたことか。「昼飯どうする?」と問われ、「私はいらん!」と無愛想に対応しても、
「じゃ、肉まん、温めて食べよっと」

これなら亭主殿も一人でできる。電子レンジでチン。はたまた蒸し器で蒸かすのも簡単だ。いい匂いが漂ってきた頃、私は書斎を出て監察に赴く。中までちゃんと温めた? どれどれ、おお、フッカフッカ。触ったついでに一口分をちぎって口に入れると、なんと柔らかく、そして餡の味わい深いこと。筍、椎茸も入っているぞ。餡を取り囲む皮がまた、かすかに甘くて餡との味のバランスが絶妙である。

「あらら、もう一口ちょうだい」

再び手を伸ばすと、

「なんだ、食べないんじゃなかったの?」

そうですけど、おいしいんだもんね。

ふくどめ小牧場のハム・ソーセージセット
ふくどめ小牧場のハム・ソーセージセット
¥4,420(税込)
カートに入れる

聞くところによると、この梅山豚の肉まんは茨城県の塚原牧場が手がけているのだとか。生産者の塚原昇氏は、日本で稀少品種である中国原産の梅山豚を、エサの厳選から環境作りに至るまで注力し、愛情を持って育てているそうだ。作っている人の心意気と品の良さがこの豚まんの味にたっぷり染み込んでいる。

昼ご飯にかぎらず、簡単に食事を済ませようと思うとき、欠かすことのできないのがソーセージである。まずご飯を炊く。サラダを作る。凝った肉料理を作る気力がない。そんなとき、冷蔵庫を開けてソーセージを発見したときの喜び。炊きたてご飯、ソーセージ、サラダとお漬け物があれば、どんな豪華な晩餐にも負けない幸福が訪れる。

梅山豚

鹿児島県鹿屋市にある「ふくどめ小牧場」は家族経営であるという。父の公明氏が牧場を興し、豚に愛情を注いで仕事をする父の背中を見て長男の俊明氏があとを継ぎ、その後、次男の洋一氏も継ぎたいと申し出たところ、父から「お前は食肉加工の職人になれ」と告げられる。こうして洋一氏はドイツで七年間修業して食肉マイスターの資格を取り、帰国したのち、イギリス原産のこれまた稀少品種であるサドルバックという豚を肥育。そのサドルバックを父に持つ「幸福豚」から作られたソーセージを通信販売しているというわけだ。牧場に「小」がついているのはなぜかと思ったら、それほどに父子の深い絆が濃密である証拠ではないか。固い結束と深い探究心の末に誕生した「ふくどめ小牧場」のソーセージは、たしかに固くてしっかりとした皮に包まれた力強い旨味が印象的である。かつてドイツの居酒屋で食べたソーセージの味を思い出す。噛みしめながら改めて文春マルシェのウエブサイトを眺めてみると、なんとソーセージだけでなく、ハムやサラミ類も種類が豊富。さらに、幸福豚のハンバーグや、バラ、ロース、肩ロースの薄切り肉もお取り寄せできるらしい。うーん、次は何を頼もうかしら。あの方へのお礼はふくどめ小牧場のソーセージセットがいいかな。きっとこの深い味わいに驚くぞ。

阿川佐和子

profile

阿川佐和子

1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めたあと、渡米。帰国後はエッセイスト、小説家、テレビ番組の司会などで活躍。「週刊文春」の「阿川佐和子のこの人に会いたい」は連載1300回を超える名物対談企画であり、『聞く力』(文春新書)は150万部を超えるベストセラーに。『ああ言えばこう食う』(檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞している。

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