そんな日々を過ごす折、発見したのである。ネットで注文できる梅山豚の肉まん君! この肉まん君たちが冷凍庫にごろんと転がっていることで、我が夫婦間の昼ご飯問題がどれほど改善されたことか。「昼飯どうする?」と問われ、「私はいらん!」と無愛想に対応しても、
「じゃ、肉まん、温めて食べよっと」
これなら亭主殿も一人でできる。電子レンジでチン。はたまた蒸し器で蒸かすのも簡単だ。いい匂いが漂ってきた頃、私は書斎を出て監察に赴く。中までちゃんと温めた? どれどれ、おお、フッカフッカ。触ったついでに一口分をちぎって口に入れると、なんと柔らかく、そして餡の味わい深いこと。筍、椎茸も入っているぞ。餡を取り囲む皮がまた、かすかに甘くて餡との味のバランスが絶妙である。
「あらら、もう一口ちょうだい」
再び手を伸ばすと、
「なんだ、食べないんじゃなかったの?」
そうですけど、おいしいんだもんね。
聞くところによると、この梅山豚の肉まんは茨城県の塚原牧場が手がけているのだとか。生産者の塚原昇氏は、日本で稀少品種である中国原産の梅山豚を、エサの厳選から環境作りに至るまで注力し、愛情を持って育てているそうだ。作っている人の心意気と品の良さがこの豚まんの味にたっぷり染み込んでいる。
昼ご飯にかぎらず、簡単に食事を済ませようと思うとき、欠かすことのできないのがソーセージである。まずご飯を炊く。サラダを作る。凝った肉料理を作る気力がない。そんなとき、冷蔵庫を開けてソーセージを発見したときの喜び。炊きたてご飯、ソーセージ、サラダとお漬け物があれば、どんな豪華な晩餐にも負けない幸福が訪れる。
鹿児島県鹿屋市にある「ふくどめ小牧場」は家族経営であるという。父の公明氏が牧場を興し、豚に愛情を注いで仕事をする父の背中を見て長男の俊明氏があとを継ぎ、その後、次男の洋一氏も継ぎたいと申し出たところ、父から「お前は食肉加工の職人になれ」と告げられる。こうして洋一氏はドイツで七年間修業して食肉マイスターの資格を取り、帰国したのち、イギリス原産のこれまた稀少品種であるサドルバックという豚を肥育。そのサドルバックを父に持つ「幸福豚」から作られたソーセージを通信販売しているというわけだ。牧場に「小」がついているのはなぜかと思ったら、それほどに父子の深い絆が濃密である証拠ではないか。固い結束と深い探究心の末に誕生した「ふくどめ小牧場」のソーセージは、たしかに固くてしっかりとした皮に包まれた力強い旨味が印象的である。かつてドイツの居酒屋で食べたソーセージの味を思い出す。噛みしめながら改めて文春マルシェのウエブサイトを眺めてみると、なんとソーセージだけでなく、ハムやサラミ類も種類が豊富。さらに、幸福豚のハンバーグや、バラ、ロース、肩ロースの薄切り肉もお取り寄せできるらしい。うーん、次は何を頼もうかしら。あの方へのお礼はふくどめ小牧場のソーセージセットがいいかな。きっとこの深い味わいに驚くぞ。
阿川佐和子作家
1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めたあと、渡米。帰国後はエッセイスト、小説家、テレビ番組の司会などで活躍。「週刊文春」の「阿川佐和子のこの人に会いたい」は連載1300回を超える名物対談企画であり、『聞く力』(文春新書)は150万部を超えるベストセラーに。『ああ言えばこう食う』(檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞している。