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ニューノーマル(新常態)
としてのお取り寄せ
岩瀬大輔
元ライフネット生命保険取締役会長

コロナは日本社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速化させたというが、正月早々ごく身近なところでそれを体感した。

長らく実家で開催されていた父の親族(5人兄弟)の新年会が初めてZoom上で開催されたのである。本DXの最大の受益者は総勢数十名のもてなしを準備する労から解放された両親だったはずだが、代わって二人はバラエティ番組の司会者よろしく画面上の叔父叔母従兄弟たちに気を使いながらあくせくコメントをふっていた。

少し時を置いて両親を自宅に招いて小さな新年会を催すこととした。ここで初めて「週刊誌のお取り寄せ」を経験することになる。3年目になる香港駐在で「名店からの出前」はすっかり日常化したし、コロナ禍で国内でも星付き店の料理が自宅に届くようになった。つまり「外の料理を家に篭って食べる」という行為自体は習慣化しつつある。

それでも、中高年向け週刊誌によく見かける「お取り寄せ」のページに関心を持つことはなかった。時折美味しそうな商品もあるが、広告企画なのかバイヤーが本気で選んだものなのか区別がつかない。何より「年寄りの嗜み」というイメージが拭えない。

そんな「お取り寄せバージン」だった私が縁あって「文春マルシェ」に初挑戦することになった。両親来訪に合わせて選んだのが「秋冬限定 一湖房の合鴨鍋」。「鴨鍋を取り寄せたから食べに来ない?」は多様な場面で使えそうな魅力的な誘い文句だ。最近気に入ってストックしてある国産「タケダワイナリー」のスパークリングや赤とも合いそう。

秋冬限定 一湖房の合鴨鍋
秋冬限定 一湖房の合鴨鍋
¥5,400(税込)
カートに入れる

日曜の夕方、父と母がガスコンロといくつかの差し入れ手料理を持って現れた。合鴨鍋を提供する一湖房は鴨ロースで有名な近江長浜の店。琵琶湖のほとりでは川魚を狙って網にかかった鴨を川魚屋が扱う伝統があり、かつての長浜港には良質な真鴨を出す店が並んでいたそうだ。元々は「浜ちりめん」なる伝統織物の商家だったが、先代が得意先で人気だった祖母の「鮎の佃煮」を商いとする。

その後、二代目が7年の歳月をかけて工夫に工夫を重ねて作り上げた「鴨ロース」が鮎を上回る人気商品となった。京都の山間部にある養鴨農家で長めの肥育期間で育てられた鴨は、刺身で食べられるような新鮮さとのこと。食材や調理法を説明するシェフやウェイターが目の前にいないお取り寄せの場合、かような作り手の思いや背後の物語をいかに伝えるかが、食体験の豊かさを大いに左右する。文春マルシェは上手に伝えられているのだろうか。

「昨年4月くらいから外食してない、ずっと二人で家で食事してるから超嬉しい。自宅で合鴨鍋なんて作らないしね」とは母の言葉。土鍋に鴨ガラの出汁と野菜を入れて、良いタイミングで鴨ロースを投入。春菊としいたけを雑味のない鴨の出汁で頂くと、身も心も温まる。肉は甘く旨味がぎゅっと詰まっている。もう少しだけレア気味でもよかった、鴨を自分で調理するのが初めてだったので後から気がつく。そういえば自分は蕎麦屋ではメニューにあれば必ず鴨せいろを注文していることに気がついた。鴨が好きだったのか。

秋冬限定 一湖房の合鴨鍋
秋冬限定 一湖房の合鴨鍋
¥5,400(税込)
カートに入れる

話題は実家がある幡ヶ谷の鴨料理屋に及ぶ。そういえばあのお店にフェンシングの太田雄貴夫妻と行ってたわね。私たちはまだ連れて行ってもらってない。あなたが病院で出してもらったばかりの目薬をお店に忘れて、私が翌日取りに行かされた。目薬ちゃんとさしてるの。母親は幾つになっても、鴨を食べていても、息子のことは心配なのである。

かくして岩瀬家のスモール新年会は幕を閉じたのだった。両親が帰宅してからやったこと。文春マルシェにて合鴨鍋と鴨ロース、鴨せいろを追加注文。幡ヶ谷の「諸菜 匠」に予約の電話。

これから私の「週刊誌お取り寄せ」生活はどのような広がりを見せるのだろうか。

岩瀬大輔

profile

岩瀬大輔元ライフネット生命保険取締役会長

1976年埼玉生まれ。ライフネット生命保険社長・会長を経て、香港に拠点を移す。現在、東京・香港の両拠点でベンチャー企業投資・支援に従事。趣味はジャズ・文楽・ヨガ・料理。

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