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可愛らしくも豪華な
蒸し鮨(ぬくずし)は、
朝食に彩を与えてくれる
大谷悠也
鮨ブログ「すしログ」ブロガー

冬に湯気と香りで心と身体を温めてくれる料理、蒸し寿司。京都を始めとする関西では「冬の風物詩」と言われる郷土寿司だ。蒸し寿司は「温(ぬく)寿司」とも呼ばれ、ちらし寿司を丼に入れてセイロで熱々に蒸し上げて作る。
温かい寿司と言うのは、一般的に珍しいのではないだろうか。食べたことが無い人は、「熱々の酢飯なんて美味しいの?」と思うかもしれない。しかし、実際にはクセになる味わいなのだ。熱々の酢飯は鯖寿司のような「冷たい酢飯」とも、握り鮨のような「ほの温かい酢飯」とも異なる魅力がある。考えてみると白ご飯は熱々の方が美味しいので、酢飯になった途端に魅力を失うものでもないだろう。文化的な感覚の問題に違いない。酢飯は温めることでお酢の酸味と香りがふわっと立ち上がり、気を付けなければむせてしまうので、注意深くハフハフしながら食べる。すると、関西寿司らしい酢飯の甘みと酸味が調和して、温かさが実に合うことに気付かされる。

蒸し鮨(ぬくずし)

冬に京都の街を歩くと、夏場の中華料理店が「冷やし中華、始めました」とのぼりを立てるかの如く、「蒸し寿司」と掲げる寿司店が目に入る。新京極の「乙羽」では、通りに大きなセイロを置いていて、湯気がもうもうと立ち上っている。「乙羽」は明治35年(1902年)創業の老舗で、蒸し寿司発祥のお店だ。ひとたび蒸し寿司の魅力を知った人ならば、店先の魅力的なパフォーマンスに抗いがたい誘惑を感じるだろう。馴染みが無い人であっても、ついつい凝視してしまいお腹が空く光景だ。現在では、「京寿司」を出す寿司店ならば高確率で蒸し寿司を出していて、大阪の関西寿司のお店でも冬期に蒸し寿司を出すお店は多い。意外に知られていないが、冬の関西で食べるべき名物の一つが、蒸し寿司なのだ。
しかし、今回頂いた【蒸し鮨(ぬくずし)】のお店は、実は京都でも大阪でもない。和歌山にある関西寿司のお店である。屋号は「笹一」。和歌山の寿司と聞いて、「おお!」と思った方は、相当の寿司好きだろう。実は、和歌山県は「寿司王国」だからだ。関西寿司だけでなく非常に多くの郷土寿司が存在し、内陸部ではアユなどの淡水魚を用い、沿岸部ではサバやサンマなどを用いる。他県では食べられない寿司も多いため、郷土寿司に関心のある方ならば訪問して損はない県が、和歌山県である。そして、今回の【蒸し鮨(ぬくずし)】の「和歌山笹一」もユニークな寿司を開発している。アセの葉を用いる【あせ葉寿司】や和歌山以外では珍しい【さんま棒寿司】など。個性的な寿司を開発するノウハウは【蒸し鮨(ぬくずし)】にも活かされていて、他とは違う味わいだ。

和歌山笹一

まず、そもそも和歌山笹一の【蒸し鮨(ぬくずし)】は、なんと冷凍である。電子レンジで温めるだけで美味しい蒸し寿司が食べられるなんて信じられるだろうか? 筆者も、頂く前は正直なところ怪訝な印象を抱いていた。米粒がビチャッと潰れたり、酢の酸味が飛んでしまったりしないのだろうか…と。しかし、いざ温めて頂いてみると杞憂に終わった。驚くほど簡単に蒸し寿司を作れるうえに、常温から温めるのと変わらない魅力がある。冷凍しても美味しい酢飯を開発するのは難しかったのではないだろうか…とお店の苦労がしのばれる。
そして、和歌山笹一の【蒸し鮨(ぬくずし)】は非常に豪華だ。緑、黄色、桜色と、色とりどりの具材が湯気の奥から微笑む。一目見て、誰もが美しいと思うだろう。具はバリエーションに富み、小さい丼でにぎにぎしく食欲を刺激してくる。海老、帆立、イカ、焼き穴子などが使われていて、錦糸卵、椎茸、絹さや、青大豆、栗、銀杏、薬味も三ツ葉に木ノ芽などと、具だくさんな蒸し寿司だ。

蒸し鮨(ぬくずし) 4個

香りは酢飯らしくスッキリしていて、いざ頂いてみると酸味は穏やか。甘みも強すぎないので、上品な味わいだ。海老や帆立なども魅力的だが、個人的に琴線に触れたのが穴子だ。香ばしく焼き上げられていて味わいを引き締めてくれる。蒸さずに地焼きで焼いた穴子を用いた寿司を頂くと、関西らしいな…と実感する。また、しっかりと煮含められた椎茸も関西寿司らしい。丼のサイズは小ぶりながら、具だくさんな上に味にメリハリがあるので、満足度は見た目よりも遥かに高い蒸し寿司だと感じた。筆者は自分で蒸し寿司を作ることもあるが、流石に穴子をさばいて焼いたり、具材をここまで揃えたりするのは難しい。今回は休日の朝ご飯に頂いたのだが、ちょっとした特別感があり、気分を盛り上げてくれた。個人的なオススメは朝ご飯なので、購入される方は是非とも試してみて欲しい。

大谷悠也

profile

大谷悠也鮨ブログ「すしログ」ブロガー

国内外6,000軒以上の飲食店を巡る鮨ブロガー。鮨・寿司・鮓の名店と文化を伝えるため2015年に「すしログ(https://sushi-blog.com/)」を開設し、鮨の第一人者としてメディアに出演。食べ歩くだけでなく、北大路魯山人の名言「自らも料理すべし」を18歳の頃より実践し、料理の研究も行っている。座右の銘は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。

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