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気分は魚市場の食堂
大木淳夫
『東京最高のレストラン』編集長

これは都市伝説かもしれないのだが、多くの食通や料理人から何度も聞いたことがある。
「美味い鯛は西でしか食えない」と。最上級の鯛は、まず京都などの関西方面で確保されてしまい、東には流通してこないというのだ。
そんなこともあって、主に東京で食べ、東京のレストランガイドを作る身としては、鯛にそれほど思い入れが無かった。 あぁ、ごめんなさい。ガツンとやられました。旨いぞ、鯛。

「明石の鯛」といえば一大ブランドで、その天然モノを漁師さんたちが考えた漬け汁で食べられるのだから、当たり前ではあるのだけれど。

明石鯛の漁師漬け 5袋

味付けはシンプル。
だからこそ、嚙むとネットリした食感から鯛本来の旨みがじわりじわりと染み出ることがとてもよくわかる。タレに含まれる海苔の佃煮が、磯の風味を醸し、海の味を増幅させる。
どうしても白身は淡泊でコリッとした食感、というイメージがあったのだが、とんでもない。
歯が舌が美味いものと遭遇した楽しさに溢れて、気分は魚市場の食堂。
訪れたこともない明石の漁港が頭に浮かんで、うっとりする。
そして面白いことに、シンプルだからこそ白飯の存在感を浮かび上がらせてくれて、ジャーで炊いただけのお米が何倍も美味しくなって! 驚くほど調和してくれる。

明石鯛 漁

料理店で食べ歩く仕事なので、いろいろなお店のご飯ものを思い出し、ついつい卵の黄身とかもかけたくなってしまった。きっと美味しい。でもいらない。邪魔をしてはいけないベストマッチ、口内調味の極みなのだから。
そして、忘れてはならない儀式がある。
ぜひとも最後の一切れでもいいから、残ったタレを入れ、お湯をぶっかけてかき込んでいただきたい。 旨みの海に撃沈する。

明石五知網

実は今回、自家製の漬け汁と食べ比べの実験もしてみた。
こういう“遊び”が出来るのもお取り寄せの楽しいところ。
家庭ではよく安いマグロを買ってきて、さっと熱湯にくぐらせて霜降りにしてから漬けにしていて、子供たちには定番の人気のメニューとなっている。余った漬け汁は冷凍しておいて、次回に解凍して新たに汁を足し、ということを繰り返しているので、個人的にはけっこういい味だと思っている。
そこで無謀にもスーパーで買った鯛を漬けて勝負!
鯛のレベルは違えど、原材料はほぼ一緒だしと(まあ、この考えがそもそも間違っているのだけれど)。
鯛茶漬けに感涙し、撃沈していた息子(二十歳)に食べさせてみたところ、「旨みの深さが違うと思うんだよね」という上から目線の残念なコメントに。
確かに自家製は味が一直線で、予想の範囲内で収まってしまう。
それに比べて、この漁師漬けは旨味が後からも追いかけてきて驚きがあり、酒の肴、丼、茶漬け、それぞれで違う美味しさを見せてくれた。
素朴さの奥に隠されたプロの味がたまらない。

大木淳夫

profile

大木淳夫『東京最高のレストラン』編集長

1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本『東京最高のレストラン』編集長を2001年の創刊より20年に渡り務めている。その他の編集作品に『堀江貴文 VS.外食の革命的経営者』(堀江貴文)、『新時代の江戸前鮨がわかる本』(早川光)、『にっぽん氷の図鑑』(原田泉)、『東京とんかつ会議』(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、『一食入魂』(小山薫堂)、『いまどき真っ当な料理店』(田中康夫)など。好きなジャンルは鮨とフレンチ。現在は、テリヤキ「テリヤキスト」、Retty「TOP USER」 、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。

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