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高級焼肉割烹「雪月花銀座」
のコースの〆カレーを、
自宅で普通に食べる「背徳感」
飯塚 敦 / はぴい
食の文筆家、ラジオパーソナリティ

カレーの食べ歩きなどしていると、どうあってもハードルが高く、なかなか簡単にお目当てのカレーを食べることができないことが、しばしばある。それも、ただ人気店である、ただ物理的に遠い場所にある、そういうことではない苦労を負わねばならぬ時がある。

公共交通機関が使えずアクセスの方法がごく限られている店、ウルドゥー語やシンハラ語がわからないと注文ができない店、営業日数が極端に少なく営業時間も非常に短い店、外国人コミュニティーのためにやっており日本人が入れない店、登山を強いられる店……。

そんな、食べることが困難なカレーの中に、コース料理の最後に出てくる〆としてのカレーというものがある。実はそういうカレー、「カレーだけ食べたい」というのはナンセンスな場合も多い。つまり、コース料理の最後に出るからこそ生きてくるというような味のチューニングをほどこされていることがあるから。コースを食べなければやはり本来のパフォーマンスを発揮することができないカレーだ。そんなことを言いながら、でも、どうにもこうにもやはり食べてみたいカレーがあった。

雪月花銀座

個体識別番号がついたカレー

東京銀座の高級焼肉割烹「雪月花銀座」。オーナーシェフ自身が競り落としてきた極上の和牛を炭火で焼き上げてくれる。焼肉の「果て」にあるような店なのだ。ここの料理コースの〆にカレーが出るという話を聞いた。確か友人の音楽家で肉マイスターの田辺晋太郎くんが言っていた記憶がある。なかなかハードルが高いのだ。
だが、「雪月花カレー」は料理の〆として出しているカレーが評判なので、はじめは常連客用にと製品にしたのだそう。が、ありがたくも常連ではないわたしにもチャンスが巡ってきた。

肉塊

箱を手に取って凝視する。箱の脇にはこんな表記が。「使用銘柄牛 個体識別番号 松阪牛A5」。このあとに10桁の個体識別番号が7頭分、表記されていた。試しに(独)家畜改良センター個体識別部のwebサイトで個体識別番号を入力、確認をしてみた。
ひとりの子は黒毛和種、2019年3月7日、宮崎県西都市生まれの雌。出生から松阪牛の里オーシャンファームへの転入を経て、三重県松阪食肉公社でのと畜までの履歴が出てきた。母牛の個体識別番号まで出ている。もうひとりの子は宮崎県児湯郡高鍋町の長谷部牧場からやってきてやはり松阪牛の里オーシャンファームで育った。
ロットによって「神戸ビーフ」「近江牛」などのA5銘柄和牛も使われるようで、なんとも凄まじい。

解体

カレーというよりも肉料理

だが、食べてみなければ始まらない。
一番初めに袋から皿にこぼれるのは美しい琥珀の色の透き通った脂。結構な量が流れ出る。これは間違いなく高品質な牛肉由来のものであろう。スパイスから出る色で染まった脂とは趣が違うのが見るだけでわかる。あきらかに、あきらかに高級。贅を尽くした色合いと照りに期待感が大きくなる。

雪月花カレー
雪月花カレー
¥3,240(税込)
カートに入れる

焙煎の果てのタマネギと煮込みの極みにある牛肉が、その二つの結果としてとろけ、融合し、ねっとりとした質感になっている。乱暴にまとめれば高級の極みともいえそうな味、体験。
カレーの強さは色々な要素がある。主に辛さかスパイスの強さが取り沙汰されることが多かろう。これはちがう。そういう場所での論争などどこ吹く風のもっと高度の高いところでカレーというよりもシチュー、シチューというよりも肉料理として存在する。これはたまらない。
実はこういう味、食べ進めるとどこかで破綻したりする。これまでも、そういう経験が多かった。ほんの少しえぐみが出たり、飽きがきたり。それがやってこない。なんという不思議。動かし難い実力を持っていた。

魅惑の時間はわずかなものだ。美味しくて、もったいなくもわずかな時間で食べ切ってしまう。そして後ろ髪引かれつつ食事を終えるのだが、箱にはまだ一袋、これと同じものが入っている。この喜びとそれを隠しておきたい気持ちがないまぜになって、狂おしい。
これはもう、「雪月花銀座」のカウンターに座って焼肉割烹の終わりに待つこのカレーを食べたいという誘惑に屈するのも時間の問題、と楽しい気分になった。

飯塚 敦 / はぴい

profile

飯塚 敦 / はぴい食の文筆家、ラジオパーソナリティ

食中心のライフスタイルブログ「カレーですよ。」に17年、5000食超の実食カレー記事を掲載。著書に技術評論社「iPhone x Movie スタイル」、笠倉出版社「カレーの本」など。月刊男性誌でのカレー店訪問記事は連載10年目、カレー専門コラムの連載で国内最長。メディア出演・執筆・監修など多数。商品開発なども手がける。
公式ホームページ:https://hapi3.net

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