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知って食べる楽しさ。
「カレー」と「カリー」
のセットの意味。
飯塚敦 / はぴい
食の文筆家、ラジオパーソナリティ

カレーライスの楽しみは、これさえ食べれば満腹まで一直線、という安心感や期待感なのではないだろうか。カレーライスを思うとき、わたしはそんなことを考える。

そしてもうひとつ。取り寄せで食べるカレーは、どんな人がどんな想いで作っているのかがいつでも気になる。それを知ると知らぬでは食べたときの楽しさが変わってくると信じているからだ。

さて、このカレー、存在は以前から知っていた。パッケージの裏にある地図。店は岩手県宮古市、わたしのGoogleマップには行ってみたい場所としてピンが打ってある。製造者の欄には「特定非営利活動法人 イーハトーブとりもと」とある。ホームページを見ると「岩手県宮古市のうまいもん製造所就労継続支援A型事業所鳥もとです。一般企業などでの就労が困難な障がい者が、様々な生産活動などを通じて、就労に必要な知識および能力の向上のために必要な訓練を受けることができる通所系サービスを行っています。」とあった。きちんと価値のある取り組みを行なっていらっしゃる。とはいえ美味しいものでないと、生き残れないのが食品業界。

ご当地レトルトカレーというジャンル、以前は惨憺たる状況であった。「地元起こし」と称して地のものの農畜産物や魚介などをアリもののレトルトカレーのソースにただ入れて完成というものが多かった。当然そういうものは淘汰されるが、印象はさらに悪くなる。そういうダメなサイクルを経て現在ようやく、きちんと美味しいご当地レトルトカレーが市民権を得て、折りからのカレーブームに牽引されつつ大きなジャンルとなっている。

カリー亭 チキンカリーとビーフカレー
カリー亭 チキンカリーとビーフカレー
¥3,456(税込)
カートに入れる

こちらで作っている2種のカレーは、「ビーフカレー中辛」と「チキンカリー辛口」。お気付きであろうか。わたしのタイプミスではない。ビーフカレーは「カレー」とあり、チキンカレーは「カリー」の表記なのだ。これはおもしろい。

まずはビーフカレー中辛。封を切って皿に滑り出た肉の大きさに驚いた。たくさん入っていることと大きいというのはニュアンスが違う。たくさんも嬉しいが、大きいというのはたくさんを越える価値がある。
カレーソースはタマネギのふくよかさを果物や牛乳が後押ししてコクが深く、完成度が高い。欧風寄りにしてあるが、小麦粉でとろみをつけすぎていないところに好感が持てる。フルーティと表現すれば間違わずに伝わるか。ライスとのバランスはいい。

大きな岩手県産和牛の塊肉にえいやと噛み付けば、途端に肉が強く主張しだす。肉にカレーがかけてある、と言いたくなるほど。カレーの肉というのは難しく、カレーの強さに飲み込まれてもいけないし、肉を頑張りすぎてソースがおろそかになってもいけない。これは肉の存在感がありながら、カレーライスのソースとして完成している稀有な例だ。

ビーフカレー

そしてチキンカリー辛口、これも肉が大きい。堂々たるサイズの岩手県産骨つき鶏もも肉が袋から滑り出てくるので、思わず声を上げてしまう。しかもちゃんとした味わいを持っており、カレーの風味に負けずに舌の上で踏ん張ってくれる。口内でごはんと共にかき回し、カレーソースと混ぜてやって存分に味わい尽くしては喉の奥に送り込む。この快楽といったらない。ソースはトマトの酸味とチリペッパーの風味が重層を成すのがわかる楽しさ。真面目に作っているなあ、と感心する。量は多いが、けっしてお腹にキツくならない。辛さも実にいい塩梅で、口の奥の方がひりりと辛く、お腹があったまる。意地悪な辛さではない。日本人が考えるインド風カレーの組み立てに準じたもので、気に入った。

どちらもボリュームがあって一人では多いかと思うほどたっぷりした量を堪能。「カレーでお腹いっぱい」を地でゆく良カレーである。

チキンカリー

カレーを目一杯楽しんだところで、さきほどの話にもどろう。ビーフカレーは「カレー」、チキンカレーは「カリー」の表記の話だが、これは多分製造者の強いこだわりであろう。

箱の裏の原材料名を読むと見えてくる。両者の材料の大きな違いは、ビーフカレーに入っている小麦粉がチキンカリーには入らないところ。ビーフカレーは正しく「日本のカレーライス」として作られている。小麦粉とカレー粉を鍋で炒めるところから始める、固形ルウ時代以前の製法だ。一方、チキンカリーは小麦粉が入らない。それはインド料理の手法を使っているということ。油をひいた鍋で玉ねぎを炒め、トマトとスパイスを加えるやり方。だからこその「カレーとカリー」なのであろう。

こういうことに気がつくと、俄然店に行ってみたくなる。仕込んだコックさんの話を聞いてみたい。障がい者支援という社会的意義と、きちんとした美味しさ。ただ食べるだけではもったいない、知って食べる楽しさをたくさんくれるカレーであった。

飯塚敦 / はぴい

profile

飯塚敦 / はぴい食の文筆家、ラジオパーソナリティ

食中心のライフスタイルブログ「カレーですよ。」に17年、5000食超の実食カレー記事を掲載。著書に技術評論社「iPhone x Movie スタイル」、笠倉出版社「カレーの本」など。月刊男性誌でのカレー店訪問記事は連載10年目、カレー専門コラムの連載で国内最長。メディア出演・執筆・監修など多数。商品開発なども手がける。
公式ホームページ:https://hapi3.net

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