関東地方から訪れたシェフらに岩手短角和牛の説明をする府金さん
2月を迎えると、岩手県岩手町にある、肉のふがねは一気に活気づく。1年で最も多忙なシーズンがやってくるのだ。
「岩手短角和牛の肉には旬があるんです」
と語るのは代表取締役の府金伸治社長。魚や野菜の話なら分かるが、肉に「旬」があるとは、どういうことだろうか。
「岩手短角和牛は、冬は暖かい人里で過ごして新緑の季節になると山の上に放牧する昔ながらの『夏山冬里』で育てています。毎年春に里で出産ラッシュを迎え、産まれた仔牛が月齢24カ月の食べ頃を迎えるのが2月からなのです」
いちばん美味しい状態で加工しておけば、現代の冷凍技術なら1年中どの季節でもベストの状態で提供出来るというわけだ。
「日本で多く流通している牛肉と違い岩手短角和牛は自然放牧を取り入れ牧草を中心とした国産飼料のみを食べて育っています。そのため良質な赤身の多い牛に育つのです」
岩手短角和牛は、もともと南部鉄器の材料である砂鉄や三陸産の塩など重い荷物を運ぶ使役牛をルーツとしているが、岩手大学の調査で疲労回復や筋肉増強に効果のある12種類のアミノ酸が黒毛和牛の1.5倍含まれていることが明らかになり注目を集めている。なかでも、旨み成分のグルタミン酸の含有率は2倍に上るという。しかし、その貴重な種は、絶滅の危機に瀕している。